ダンスに魅せられた表現者ママ

高校卒業後、社会に働きに出たひとりの女性がいます。しかしその道はなかなかの茨の道で、待っていたのはモラハラ、セクハラ、パワハラといったハラスメント地獄。
そんな地獄を乗り越えてきた女性の名前は、ちかさん。
現在は「モダンダンス」をメインに札幌で活躍されている一児のママさんです。
「向上心」よりも「現状維持」を大事にしてきたと話すちかさんが、今ではさまざまな挑戦に足を踏み出せたのはなぜでしょうか。その謎に迫ります。
ハラスメント、いじめ、別居の過去
「高卒で働きに出たらハラスメント地獄で(笑)。そのあと、私がセクハラに耐えきれなかったのはおじさんに耐性がないからだ!ってなぜか思ってニュークラで働き始めました(笑)」と、その過去を今では笑い話にしているちかさん。
「そのあとコールセンターでも働き始めてそこで『良いおじさんもいるんだ!』って気付けて。ニュークラはやめてコールセンターでずっと働いていました」
しかし、そのコールセンターで仲間外れにされたりとどこに行っても馴染めない日々。違うコールセンターに行っては、辞めるの繰り返し。上司に相談しても、何も対策してくれないことに絶望していたと言います。

その後旦那様と結婚し、出産。息子くんの誕生でした。
そして息子くんが6ヶ月になった頃、たまたま住んでいた家の近くに新しい保育園が新設されそこに入園できることに。そこからちかさんは、友人が家族で経営されているカフェや、コンビニ、100円ショップなどでパートとして働きに出ました。
「実は子どもが生まれてから人間関係が良く回るようになったんです!職場では良い人に恵まれて、初めて仕事って楽しいなって思えるようになってきました」
そう話すちかさんでしたが、この頃に旦那さまと2年間別居することに。
そのタイミングでちかさんに「子どもたちに教えるモダンダンスの先生にならないか?」というお声がけが舞い込んできました。

感情を表現する『モダンダンス』とは?
モダンダンス、みなさんこの言葉を聞いたことはありますか?ちかさんに「モダンダンスとは?」と聞いてみると「説明が難しいんですよね…」と頭を抱える場面も。
「わかりやすく言えば『コンテンポラリー』だし、でも『コンテンポラリー』って言うとそれもまた違って、言葉で説明するとしたら『創作舞踊』とか…」
たとえば、感情が『悲しい』となった時に、その悲しみをどう表現するか、がこのモダンダンスの肝。

「ただ脱力するだけで悲しいを表現するのか、それとも上を向きながら悲しいを見せるのか、とか…劇とはまた違うんですけど、哲学的に自分の中の深層の部分をいかに表現できるかなんです。コンテンポラリーは技で魅せるけど、モダンダンスは『自分の気持ちそのままを踊ってあげる』という感覚に近いんです」
そんなモダンダンスをちかさんは3歳の頃から習っていました。もうかれこれ25、26年の大ベテラン。始めたきっかけはお遊戯会を見に来てくれた叔母さまの一言だったそうで…。
「私の母も、母の姉の叔母もふたりともモダンダンスをやっていたのですが、お遊戯会での私のダンスを見た叔母が『この子にはダンスをやらせた方がいい!』という何か直感みたいなものがあったようで、連れて行ってくれたのがきっかけです(笑)」
その後も働きながらモダンダンスを続ける日々。特別モダンダンスを通じて「こうなりたい」などはなく、ただずっとこのまま踊り続けられたらそれでいい、そう思いながら続けていたそう。しかし、後輩が踊っている姿を見て「人体って面白い!」と気づき理学療法学や解剖学なども自ら学んでいたと言います。
そんな日々を過ごす中、旦那さまと別居されたタイミングでもある、2020年の頃。
まさにコロナが始まってきたタイミングではありましたが、モダンダンスの先生としてのちかさんの新たな人生が動き出しました。時期が時期ではありましたが、生徒にも、その親御さんにも恵まれたと話し、良い環境でいろんなことをさせてくれた環境に感謝ですとちかさん。
向上心VS現状維持
ちかさんはこれまでの人生を振り返り自分で「良くも悪くも『普通』の人生」と言っていましたが、それがここ近年変わったとのこと。
「モダンダンスをずっと一緒に踊っている後輩は、向上心がすごいんです。はたまた私は現状維持でいいと思うタイプ。後輩が『もっと人を増やして舞台に立てる人を増やした方がいい!』って言ってくるけど、私は『じゃあその方法は?』ってすぐに現実的に考えてしまう。それに、正直そこまで考えが及ぶほど頑張ろうとも思っていなくて、今良いメンバーが揃っているし、最悪人がいなくなっても自分が踊れたらそれでいいかなって思ってるのもあったんです」

しかし、いよいよ人数が少ないと作品の数をこなすのが大変…となってきた頃に、ちかさんの中で「これは指導者としてどうなんだろう?」という考えがよぎります。そこから「増員」を考え始めるも、何ができるのやら…と考えていた時に、たまたま札幌の習い事情報を発信しているアカウントを発見。その発信をされていた「あっこさん」がたまたま、北海道ママのオンラインコミュニティ「neaRlabo(ニアラボ)※以下ニアラボ」の投稿をシェアしていたのを目にします。
それはカフェのような場所でママ会を開催している投稿でした。
「なんだろうこれは…!」そう思って情報を辿り、ニアラボの運営者のアカウントに辿り着いたのでした。
「私自身、ママ友はいないタイプでした。というか、友だちっていう友だちがいないというか。そのせいで息子にも休日に遊べるような友だちがいなかったんです。それってどうなのかなって思ってるところがあって、そんな時にちょうどニアラボの新メンバー募集がかかって『これは入った方がいい!!!』となって飛び込みました」
そしてこのニアラボというコミュニティに入って、考え方が変わって行ったと話します。
「中に入ってみると、こんなに挑戦している人がいるんだって思いました。だとしたら私ももっと頑張れそうだな!?って思って。そこから少しずつ思考が変わっていきました。現状維持じゃない、向上できる思考に変わっていったんです」

出会いで一歩踏み出せた
現在はモダンダンスの先生のほかに、美姿勢クラスという教室も運営しているちかさんですが、この教室を新設できたのもこのニアラボを通しての出会いがあったからでした。

「ニアラボメンバーのはるかさんという方がお店を出す!ということで、ボランティアでお手伝いに行きませんか?っていう書き込みをさおりさんという方がニアラボ内で投稿していて。行けるな…って思って行ってみたんです。そしたらその日のうちに意気投合しました(笑)。さおりさんの子どもと、うちの息子も仲良くしてくれたり、さおりさんや、はるかさんの話を聞いたりしていると『自分もこういうことができるかも、ああいうことができるかも』って色々アイディアが浮かんできました」
そしてここで出会ったさおりさんとお仕事がしたい!何かできないか…と考えた時に、もともと保育士だったというさおりさんとタッグを組んで、ママが子連れで行ける「美姿勢クラス」が誕生したのでした。

今でこそこの美姿勢クラスはとっても人気なのですが、さおりさんとの出会いがなければやっていなかったかもしれないと話すほどです。
ここでひとつ疑問が。なぜ、モダンダンスのレッスンではなく「美姿勢クラス」として新たなものを誕生させたのでしょうか。
「モダンダンスではどうにもできないなって思うことがあって、『床バレエ』という資格を取ろうと思ったんです。床バレエなら、ママでも、おばあちゃんでも誰でもできる運動だから。でも、床バレエを教えてくださる方と面談をした時に言われたんです。『ちかさん…きっとまだモダンダンスに可能性感じてますよね?』って。そして続けて『今すぐ決めなくていい。自分の未来の様子を考えてみて』と言われてそこからすっごく考えました」
そして浮かんだひとつのアイディア。それは…
「モダンダンスをママ向けに自分で改良してエクササイズにすればいい!」でした。
「それをさおりさんに言ったら『すぐやった方がいい!』って言ってくれて(笑)」こうして、まわりの仲間たちの背中押しによってちかさんの新たな挑戦が始まりました。
自分と向き合い、自分の働きやすさを学ぶ
美姿勢クラスの誕生という新たなスタートに対して、不安というものも案外なかった、と話すちかさん。
「人が来なかったら来なかったで悲しかったかもしれないですけど、一番最初にレッスンの募集をかけたら3人来てくれました。そしてすごく良かった!って言ってもらえて、次も次もと続いていきました。私自身も『自分にはこれが合っている』と再確認できました」
今ではそこから改良を重ねながらどんどんブラッシュアップしている美姿勢クラスです。しかし、人気が出てきてしまったからこそ新たにぶつかってしまった壁もあったそうで…
「言われたらなんでもやりたくなるタイプで。あっちでもこっちでも呼ばれたらどこでもやるようになって、だんだん自分のスケジュールが苦しくなってきたんですよね。ちょっとまずいなって思った時、体は正直なもので体調を大きく崩してしまいました。もう少し自分の気持ち的にも楽なところで頑張らないとって思って、自分が頑張れる範囲で、踏ん張れる回数をこなそうと決めて今はそこのバランスを取りながらレッスンをしています」
自分の体と調整しながらも、モダンダンスの先生、美姿勢のグループレッスン、パーソナルレッスンなどをうまくこなしている日々だそうです。自分で仕事をつくる、というのは、こういう自分の体との塩梅も大切になっていきますね。
しかしこの美姿勢クラスはやりがいがたくさんあるそうで「生徒さんの『先々週よりも姿勢のびてない!?』とかそういう変化の瞬間に立ち会えるのが楽しい」とニコニコ笑顔のちかさん。
「私はこれですごい頑張って稼ぎたいわけじゃないんです。私を通じて、健康になって、笑ってくれるようになるのであれば赤字になろうがいくらでも頑張るよってタイプ。それでお金がついてきたらあーよかったって思えるんですよね」

同じメニューしか選べなかった私の挑戦

過去を振り返り「こんな未来がくるとは思ってもみなかった」と笑うちかさん。
しかし、過去があるから今があるのは間違いありません。そんなちかさんに今後の目標を聞いてみました。
「美姿勢クラスも繁栄させていきたいし、モダンダンスも、もっと子どもたちに教えていきたい!子どもが踊ってるのって可愛くて大好きで…!舞台に立って頑張っている姿とかそういう瞬間にもっと立ち会いたいんです。あと、大人の女性を集めた舞台もやってみたいなぁ…。小中学生では作り得ない表現力があるから…」
と、今後のやりたいことについてわくわくな表情を浮かべながら話すちかさんの口から出てくることは、どれもダンス関係のお話でした。
モダンダンスとともに生きてきたちかさんは
木が揺れてるのを見て
木の葉っぱが落ちてくると
それをダンスにするとしたらこう表現できるかな
飲み物飲んでるこの動きがダンスになったらどうなるかな
運転してる時におばあちゃんが歩いてるのを見て
その格好からダンスできないかな
そういうことを常に考えるようになっているのだとか。
そんな思いからかつて、俳優になってみたいと思った時期もあったそうで…。
「でも、セリフが言いたいかって言われたらそうでもなくて。自分が自分らしく表現できる場所って結局今の場所なんだなって気付けた時に俳優としての道は挑戦しなくてもいいかなって高校の時にふと思ったんですよね」

踊ってる方が好き。
そう話すちかさんの顔は心からイキイキしていました。
「前までは変化を恐れちゃうタイプだった。ご飯屋さんに行ってもいつも決まった同じメニューの注文ばかり。でも最近は新しいメニューに挑戦してみたり、新しいことをするということに対してわくわくするっていう脳に変わりました!」
変わる勇気をくれたのは、出会いと、仲間と、そして自分自身。
『現状維持』から『挑戦』へ。
ゆらめく木の葉のように、
人生もまた、風に揺れながら形を変えていく。
それでも、自分のリズムで。
今日も彼女は、踊り続ける——。
ちかさんのこれからのダンスは、
きっと誰かの背中を、そっと押してくれるはずです。
彼女が変わったきっかけは、“仲間の存在”でした。
誰かと笑い合いながら、挑戦すること。
それだけで、人生は思っているよりもやさしく変わっていく。
次は、あなたの番です。
インタビュー日:2025年6月
ライター:りさこ
