「ひとりで頑張る」を手放した日

スマートフォンの画面の向こう側に、誰かの暮らしがある。
子どもの寝息が聞こえる夜。
家事がひと段落したほんの数分。
あるいは、抱っこで片手がふさがったまま、もう片方の手でそっと開く画面。
北海道に暮らすママたちが集うオンラインコミュニティ「ニアラボ」には、そんな日常の隙間から集まってくる人たちがいます。
仕事のこと。子育てのこと。これからの人生のこと。
誰かにわざわざ相談するほどではないけれど、ひとりで抱えているには少し重たいこと。
そんな小さな気持ちが、ぽつりぽつりと置かれていく場所です。
今回お話を聞いたみゆきさんもまた、そんなニアラボに出会い、人生が少しずつ変わっていった一人。
けれど最初から「ここなら大丈夫」と思えていたわけではありませんでした。
「正直、不安はありました」
そう話すみゆきさんは、少し照れたように笑います。

女性同士の輪に入っていくこと。
新しいコミュニティに飛び込むこと。
ましてや、オンライン上で初めて出会う人たちと関係を築いていくこと。
それは、誰にとっても少し勇気のいることかもしれません。
「女の子たちと仲良くするのが結構苦手なタイプなんですよね。ニアラボに入っても、友達ちゃんとできるのかな、みたいな不安はありました」
大人になってから友達をつくるのは、思っている以上に難しいもの。
学生時代のように、毎日同じ教室に通うわけでもありません。
職場では立場や役割があり、ママ友となると子育ての価値観が見えてしまう。
昔は気が合うと思っていた友達とも、ライフステージの変化とともに少しずつ距離ができてしまうこともあります。
それでもみゆきさんが一歩を踏み出せたのは、ニアラボに「見るだけでもいい」という余白があったからでした。
「ママ会に参加してもいいし、しなくてもいい。ディスコードも見るだけでもいいっていうのが、すごく始めやすかったんです」
入らなきゃ。話さなきゃ。仲良くならなきゃ。
そんな圧のない場所。
参加する自由も、見ているだけの自由もある。
そのやわらかさが、みゆきさんにとって最初の安心になったのかもしれません。
インスタを辞める投稿まで作っていた妊娠中
みゆきさんがニアラボに入ったのは、第二子妊娠中のことでした。
みゆきさんは、もともと看護師さんとして働かれていましたが出産後働き方を一変。インスタグラムを通じて「ねんね」に悩むママたちに向けた発信をしていました。そんな自分の肩書きを「ねんね看護師」として、インスタグラムを通して、お子さんの睡眠に悩むママさんをオンラインでサポートするというお仕事もされていました。

けれど第二子の妊娠、つわり…。つわりが苦しい中で、出産後の生活を想像した時、そのすべてを続けていける自信がなくなってしまったと言います。
「発信をもう辞めようと思ってたんですよ。つわりもひどかったし、産後もどうなるかわからないから、もう全部辞めようと思って」
続けたい気持ちはある。
でも、続けられる未来が見えない。
やりたいことがあるのに、体も心も追いつかない。
きっとこの感覚は、妊娠や出産を経験した多くの人にとって、どこか身に覚えのあるものではないでしょうか。
「インスタの発信を辞めます、という投稿まで作って、あとはこれを投稿するだけ、という状態でした」
その言葉の重さに、胸がぎゅっとなります。

本当に諦めたくて諦めるわけではなかったはず。
本当は続けたい。本当はまだやってみたい。
でも、自分ひとりではどうにもできないと思った時、人は自分の可能性をそっと閉じようとしてしまう。
みゆきさんも、まさにその手前にいました。
そんな時に見たのが、ニアラボ内に残されていた過去のセミナー動画でした。
ニアラボでは月に1度いろんなジャンルの学びができるセミナーがオンラインで開催されています。
みゆきさんはニアラボに入ってすぐに、この過去のセミナーのアーカイブを全て見たのだとか。
「セミナーの動画が、全部めちゃくちゃ刺さりまくって…!特に『失敗してもいいじゃないか、失敗も売れるからいいんだ』っていう言葉がすごく印象的で」
失敗してもいい。
失敗さえも、自分の物語になる。
その言葉が、辞めようとしていたみゆきさんの心に、小さな灯りをともしました。
「もうちょっと頑張れるかもしれないって思ったんです」
ほんの少し、前を向けた瞬間でした。

「助けてください」と送ったDM
それでも、ひとりで進むにはまだ不安が大きかったのだと思います。みゆきさんは、ニアラボ代表のりさこにDMを送りました。
「こんな状態なんですけど、助けてくださいって送ったんです」
その時のことを思い出しながら、みゆきさんの声は少し震えているようでした。
「本当に続けたいのに続けていけない…私は、ママになっちゃったから続けてはいけないんだって思っていて」
ママになったから。
子どもが二人になるから。
妊娠しているから。
産後どうなるかわからないから。
本当は理由にしたくないことが、どうしても目の前に立ちはだかってしまうことがあります。
その一通のDMをきっかけに、ニアラボ代表りさことzoomで対話を重ね「ねんねガイド」という動画教材を販売するという道を拓いていくこととなりました。

これまでねんねに悩むママさんを直接サポートをしていましたが、第二子出産後はおそらくそれが難しくなってしまう。それであれば、直接サポートするのではなく、みゆきさんが持つ全ての知識を詰め込んだ「ねんねガイド」という教科書のようなものを作ろう、ということになったのです。
「りさこさんが本当に応援してくれて、背中を押してくれて。大丈夫、いけるよ!と言ってくれたから続けられたんです」
誰かに「大丈夫」と言ってもらえること。
それは、ただの励ましではありません。
自分では見えなくなっていた道を、隣で一緒に照らしてもらうようなことなのだと思います。
「ひとりだったら、どういう感じで進んでいくんだろうって思っていたけど、りさこさんのアドバイスのおかげで、まずはこれをやるんだ、あれをやるんだって明確になっていったのが大きかったです」
伴走してもらうということは、代わりに走ってもらうことではありません。
その人の中にある答えを一緒に見つけて、次の一歩をわかる形にしていくこと。
立ち止まりそうになった時に、「本当はどうしたいんですか?」と問いかけてくれる人がいること。
「私がうじうじしてたら、何にうじうじしてるんですか!ってちゃんと聞いてくれて。これとこれがあるって言ったら、『いや、みゆきさんの中で答え決まってますよね?』って…。ほんと『確かに…』みたいな状態でした(笑)」
そのやりとりを冗談交じりに話すみゆきさんの表情には、当時の自分を少し懐かしむようなやわらかさがありました。
悩んでいた時間も、泣きながら送ったDMも、全部が今につながっている。
そう思える場所まで、みゆきさんは少しずつ歩いてきたのです。
ニアラボだったら、失敗してもいいと思えた

みゆきさんの挑戦は、動画販売だけではありません。
ニアラボ内で、セミナー講師として登壇する機会もありました。
初めての挑戦。
もちろん怖さがなかったわけではありません。
「新しいことに挑戦するのはすごく怖いけど、でもニアラボだったらできるって思ったんです」
この言葉には、ニアラボという場所の空気感がよく表れているように感じます。

すごい人だけが挑戦する場所ではない。
完璧にできる人だけが前に出る場所でもない。
初めてでもいい。
うまくできなくてもいい。
まずやってみようと思えることに価値がある。

「セミナーって、これまでいろんなところでセミナーをやってるような、『すごい人』がやるものだと思っていたんです。でもニアラボでは、初めてセミナーやります!っていう人もいる。だから私も、きっとできる。できなくても、なんとかなるだろうなって思えました」
なんとかなる。
その言葉は一見軽やかだけれど、そこには「受け止めてくれる人がいる」という信頼があります。
挑戦する人を笑わない。
失敗を責めない。
むしろ「やってみたこと」を一緒に喜んでくれる。
そんな環境に身を置くことで、人は少しずつ自分の可能性を信じ直せるのかもしれません。
「ちょっと勇気を出して挑戦したことによって、次のお仕事に繋がるというか、自分の幅が広がるっていうのをすごく感じて。あれも挑戦してよかったです」
挑戦は、いつも大きな夢から始まるわけではありません。
誘われて、少し迷って、でもやってみる。
怖いけれど、信じて飛び込んでみる。
その小さな一歩の先に、新しい自分が待っていることがあるのです。
ママ友がほしい。でも、知らない人に会うのは怖い
みゆきさんがニアラボに入ってよかったことは、仕事の面だけではありません。
もうひとつ大きかったのが、ママとしてのつながりでした。
第二子が生まれてから、みゆきさんは長女の時との違いに戸惑っていたといいます。
「長女は置けば寝るし、そんなに夜泣いたりもなかったんですけど、次女は抱っこじゃなきゃ寝ないというのが多くて」

出かけたい。
誰かと話したい。
同じくらいの赤ちゃんを育てているママと、気軽にランチに行けたらいい。
でも、子育てサロンに行っても、自分からぐいぐい友達をつくるタイプではない。
SNSで「近所の人会いましょう」と呼びかけている人を見ることはあっても、知らない人に会うのは怖い。
「どんな人が来るかわからないし、どんな感じなんだろうっていうのがあるけど、ニアラボだったら絶対変な人いないし、きっと価値観の似てる人、仲良くなれる人が来てくれるんじゃないかって思ったんです」
そこでみゆきさんは、ニアラボのお誘い部屋に「0歳の赤ちゃんママ会をやりたい」と書き込みました。
すると、メンバーから反応があり、実際にママ会が開催されることに。
「それがすごく楽しくて。またその方とランチに行くんです」
そう話すみゆきさんの声は、とても楽しそうに弾んでいました。
大人になってから友達ができること。
しかも、今の自分の悩みや暮らしを分かち合える人と出会えること。
それは、思っている以上に心を軽くしてくれるものです。
「2人育児のことだったり、0歳って変化が激しいじゃないですか。悩みもすごくあるから、その話ができたのがすごくよかったです」
ただ情報がほしいわけではない。
ただ正解を教えてほしいわけでもない。
「うちもそうだよ」
「わかるよ」
「大変だよね」
そんな言葉に、救われる日があります。
共感から始まる、やさしい世界
みゆきさんに、ニアラボメンバーはどんな人が多い印象かを聞くと、少し考えながらこう答えてくれました。
「自分の価値観と似てる人が多いなって思います。あと優しい。話しやすい」
その「価値観」とは、どんなものなのでしょう。
「公園とかスーパーで、子どもに汚い言葉で怒っている親を見ると、私もグサッときちゃって、もやもやするんです。でもニアラボにはそういう人はいないっていう印象があります」
もちろん、子育てに正解はありません。
誰だって余裕がなくなる日はあるし、声を荒げてしまう日だってある。
けれど、みゆきさんが求めていたのは、誰かを責める場所ではなく、まず受け止め合える場所でした。
「悩みを相談したら、『うちもその悩みあるよ』って共感してくれることが多いんです」
アドバイスより先に、共感がある。
「こうした方がいいよ」と正しさを差し出す前に、
「つらかったね」
「頑張ってるね」
と、その人の気持ちを受け止める。
その順番があるだけで、人はどれほど安心できるのでしょうか。
バレンタインのママ会に参加した時も、そこにはやさしい空気が流れていたといいます。
「子どもが泣いたりしても、誰も嫌な顔をしない。素敵な言葉をかけてくれて、楽しい時間を過ごせる」
子どもが泣いたら申し訳ない。
迷惑をかけたらどうしよう。
そう思って外出そのものが億劫になるママも少なくありません。
でも、泣いても大丈夫。
お互いさまだよ。
そんな空気があるだけで、ママは少し呼吸がしやすくなる。
ニアラボのあたたかさは、きっとそういうところに宿っているのだと思います。
肩書きを外した先で、また友達になれる
みゆきさんは、もともとご自身が看護師だったということもあり、友人の多くは看護師だったといいます。
同じ仕事をして、同じような環境で過ごしてきた人たち。
けれど結婚、出産、住む場所の変化によって、少しずつ会う機会が減っていきました。
「今までは友達の9割が看護師だったんですけど、今は5割ぐらいフリーランスというか。ニアラボだとママさんで同じ共通の話題があったり、近くで会えるママ友ができたりするので、育児の息抜きができるのがすごくありがたいです」
ニアラボには、フリーランスだけでなく、会社員も、専業主婦も、さまざまな立場の人がいます。

でも集まった時には、「あなたは会社員だから」「あなたはフリーランスだから」といった肩書きは、少し横に置かれているように感じます。
仕事の話をしてもいい。
育児の話をしてもいい。
趣味の話をしてもいい。
ただくだらないことで笑ってもいい。
そこにいるのは、肩書きではなく、ひとりの人。
大人になってから、もう一度そんなふうに人と出会える場所があること。
それは、想像以上に貴重なことなのかもしれません。
「大人になって友達作るの、大変ですね」
みゆきさんがぽつりとこぼしたその言葉に、思わず頷いてしまいます。
特にママになってからは、子育ての価値観が合うかどうかも大きい。
昔は気が合っていた友達とも、少し違うなと感じることが出てくる。
そんな時に、自分の今の暮らしや気持ちに近い人と出会える場所がある。
それだけで、日々の景色は少し変わって見えるのだと思います。
どこに身を置くかで、人は変わっていける

みゆきさんに、ニアラボに入って変わってよかったことを聞くと、返ってきたのはとてもまっすぐな言葉でした。
「全部」
少し笑いながら、でも確かにそう思っているのが伝わってくる力強い言葉でした。
「この仕事を続けられているっていうのが、まず大きいです。やりたかったことだけど、続けていく道が見えなくて、やめざるを得ないって自分の中で追い込んでいたけど、全然そんなことないじゃんって言ってもらえた」
辞めるしかないと思っていた仕事。
無理かもしれないと思っていた挑戦。
ひとりでは越えられなかった不安。
そのすべてが、誰かに伴走してもらうことで、少しずつ形を変えていきました。
今後の目標を聞くと、みゆきさんは「ねんね看護師として、もっとたくさんの人を救いたい」と話してくれました。
「もっとたくさんのママたちに知ってもらいたい。そのために自分を高めていきたいからこそ、ニアラボのセミナーとか、挑戦部屋とか、いろんなところを使いながらやっていけるっていうのはあります」
ひとりで頑張るのは大変です。
夢がある人ほど、頑張り屋さんであることが多い。
でも頑張り屋さんほど、ひとりで抱え込んで、限界まで走ってしまうこともあります。
だからこそ、どこに身を置くかは大切なのだと思います。
挑戦を笑わない場所。
失敗を責めない場所。
悩みを話した時に、まず「わかるよ」と受け止めてくれる場所。
そして、自分では見えなくなっていた可能性を「まだいけるよ」と一緒に見つけてくれる場所。
みゆきさんにとって、ニアラボはそんな場所でした。

辞めようとしていた発信を続けられた。
動画教材をつくることができた。
セミナー講師にも挑戦できた。
赤ちゃんママ会を開き、また会いたいと思える人にも出会えた。
それはきっと、派手な成功物語ではありません。
けれど、暮らしの中で静かに、確かに人生が変わっていく物語です。
ひとりで頑張ることを手放した時、
人は弱くなるのではなく、もう一度強くなれるのかもしれません。
自分の人生を、自分だけで抱え込まなくていい。
そんな選択肢が、ここには確かにあります。
「ひとりで頑張らなきゃ」と思っていると、自分では見えなくなってしまう道があります。でも、誰かに頼ることや、新しい場所に一歩踏み出すことで、人生の選択肢はまた増えていく。ひとりで抱え込まなくていい。みゆきさんの変化は、環境や出会いが、自分の可能性をもう一度ひらいてくれることを教えてくれます。
みゆきさんのWebサイト:https://nennne-nurse.com
インタビュー日:2026年3月
ライター:りさこ
